Trade-offの克服

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椿原 美治
(大阪大学大学院医学系研究科腎疾患統合医療学 寄付講座 教授
大阪府立急性期総合医療センター 腎・高血圧内科部長)


今年のEDTAはパリで開催された。私はヨーロッパ好きでもあって、ほとんど毎年演題をひねり出して出席している。宿泊のホテルの朝食では、美味しいパンに、何種類ものチーズやヨーグルトをはじめとした乳製品の多いこと! しかも高齢のご夫妻も朝から食欲旺盛。日本に比べると、明らかに乳製品が多い。
ところで当院では保存期慢性腎不全(ND)患者を対象に、数種類のリン吸着薬の治験が行われている。CKD-MBD対策である。しかし、ND患者でリン濃度が5mg/dL、ましてや5.5mg/dLを超えるような患者は、末期ND患者か、よほど高リン食を摂っていない限り存在しない。当院では大半のND患者は教育入院を受けており、リン制限の必要性を認識していることも要因で有る。私は初診のND患者に教育入院を勧める際に、“乳製品食べたら、骨が脆くなるのを知ってますか?”と患者の虚を突く。怯んでいる間にTrade-off仮説を説明する。患者は教育入院に同意する、と言う案配である。
しかし、かかりつけ医の先生方も、ND患者にリンが悪いという認識がほとんど無いのも事実で有る。
Cr値が10mg/dLになっても、合併症の無い患者ではほとんど無症状で有る。これは様々なTrade-offが働き、極限まで生命維持に関与しているためである。腎性貧血、高血圧、低Ca血症なども広い意味ではTrade-offであろう。しかしTrade-offである以上、他に代償を支払っている。エリスロポエチンの産生やビタミンD(VD)の活性化が何故、腎臓で行われているのか?進化のプロセスを考えると面白い。
活性型VD製剤の生命予後に及ぼす効果を検討するJ-DAVID研究は、有効なリン吸着薬が存在するから行える。赤血球造血刺激因子製剤(ESA)で腎性貧血が行えるのは、有効な降圧薬が存在するからである。ESAの腎保護や生命予後改善効果に関してもcontroversialであり、我が国でも腎保護作用を証明するPREDICT研究が始まった。いずれも我が国から発信するRCTであり、結果の如何を問わず貴重なevidenceとなる事は間違いない。