最近の臨床研究の不正疑惑と過剰反応について

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鶴屋 和彦
(九州大学大学院包括的腎不全治療学)


最近,臨床試験における不正や製薬会社の不適切な関与が問題視され,わが国の臨床研究に対する姿勢が問われています.
ディオバンの臨床研究では,データ改ざんや会社の元社員が身分を隠して研究に関与していたことが発覚し,大きな社会問題となっています.思い返せば,疑惑が持たれている論文の一つがLancet誌に掲載された当初から論文の内容が不自然という意見があり,不正を疑う声は確かにありました.当時,その会社のMRが訪問した際に質問したところ,「何と言われてもLancet誌に掲載されていますから(それが何よりの答えです)」という返事を,胸を張って繰り返していたのをよく覚えています.結果的には不正が発覚し,論文は撤回され元社員が逮捕されるという予想以上の展開をみせています.
この論文がわが国および世界の臨床現場にどれだけ影響したかは計り知れませんが,わが国の臨床研究の信用が失われたのは間違いありません.その結果,臨床研究が非常にやりにくくなっているのも事実です.
最近,以下のような話を耳にしました.某研究室で,降圧薬を用いた臨床研究が行われ,その薬剤を販売している製薬会社からも大きな期待が寄せられていたそうです.ところが突然,製薬会社がその研究の結果公表を控えてもらいたいと要求してきたということです.その会社が関与した別の薬剤に関する過去の大規模臨床研究の不正疑惑が飛び火して,プロトコール作成への不適切な関与を疑われる可能性があるからというのが理由です.どこにも不正がなく基本的に医師主導の臨床研究であれば中止の必要はないと思われますが,会社側の意見によると,これまでセーフと思っていたことが外部からはアウトと判断され得るとのこと.このような話を聞くと,臨床研究を行う上で,どこまでがセーフでどこからアウトなのかがよく分からなくなってしまいます.
J-DAVID研究が,このような研究不正やそれに対する過剰反応に巻き込まれることなく順調に進められ,結論が導きだされることを心より祈念しています.


「真理」を見出すための仮説と実践的検証の重要性

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鶴屋 和彦
(九州大学大学院包括的腎不全治療学)


透析医療に携わって約20年が経過するが,この間の透析医療の発展は著しく,特に骨ミネラル代謝異常の分野における進歩は目を見張るものがある.20年前,副甲状腺ホルモン(PTH)の測定法としてはC-PTHが主で,リン吸着薬はアルミゲルと炭酸カルシウムが中心であった.ビタミンDに関しては,活性化が阻害されている透析患者に対する補充療法という認識とPTH上昇の抑制を最も重視して,活性型ビタミンD製剤をほとんどの患者に投与していた.また,ビタミンDパルス療法の有効性が報告されてからは,静注薬がなかったために経口薬を用いたパルス療法を行い,その有効性に驚いたことをよく覚えている.その後,アルミゲルの使用禁忌,低回転骨や血管石灰化の問題,塩酸セベラマーや炭酸ランタンなどのリン吸着薬やカルシウム受容体作動薬の登場など,目覚ましく発展した結果,それまでの様々な「常識」が,必ずしも「常識」でなくなったことは周知の通りである.
「常識」と考えられていたことが新しいエビデンスの構築により「非常識」となることは医療においてはよくみられることで,なかでも,透析医療や骨ミネラル代謝異常のように急速に発展している分野では,その傾向が顕著である.そのような分野において,永久に変わらない「常識」(すなわち「真理」)を見出すことは,極めて意義深いことと思われる.
「真理」を見出すためには,十分に裏付けされた確信のある仮説を立て,それを実践で証明することが必要と言われている.J-DAVID研究における「ビタミンDは長寿ホルモンである」という仮説は,これまでに報告された質の高い大規模観察研究によりしっかりと裏付けられており,「真理」を見出すための仮説としての条件を満たしている.しかしながら,どんなに論理的によくできた仮説であっても,実践的検証を経ていない理論は「真理」とは言えない.また,現実世界では,米国でのサプリメント市場においてビタミンDが急速に伸びているという事実があり,この仮説が「真理」であるか否かの検証が急務とされている.したがって,J-DAVID研究においてこの仮説を実践的に検証する意義は極めて大きいと思われる.
このような意義深い研究に参加させていただいていることは非常に有り難いことであり,感謝の念に耐えない.J-DAVID研究の成功を心より祈念している.