私と透析患者の血管石灰化

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田 中 賢 治
(翠悠会診療所)


私は、総合病院の内科で勤務している際に主治医をした男性透析患者のことを今でも忘れられません。会社経営をしている62歳の導入後6年の糖尿病患者でした。PADによる左足趾の潰瘍で皮膚科と共観で加療していました。当時、下肢のPTAやバイパス術は現在ほど盛んではありませんでした。潰瘍の治癒が遷延し、創部感染も悪化したため下肢切断について再三説明しましたがPTA目的で転院して行きました。2週間後、PTA後に亡くなられたと家人より報告を受けました。その患者の下肢動脈エコー図は、両下肢とも大腿動脈から足背動脈までびまん性の石灰化と高度の狭窄が多発するひどいものでした。ここに至るまでに何とかできなかったのかと血管の管理の重要性を痛感しました。私は、2007年から現在の透析診療所に勤務するようになり、当院の理事長から最初に与えられた仕事は、透析患者の冠動脈を調べることでした。約400人全員のカルテを調べ、原疾患、既往歴、心電図、胸部症状からリスクの高い患者を選別し、当時まだ県下の病院でもほとんど導入されていなかった64列CTで石灰化スコア、冠動脈の狭窄率を計測しました。放射線技師の協力もあって半年ほどで解析し終わり、3枝病変やCACSが2万を超える症例などが次々に見つかりましたが驚くことにそれらのほとんどがほぼ無症状でした。またその2年後の予後調査ではCACSの高い順に亡くなっている結果に驚愕しました。ただ、ハイリスクの症例の冠動脈を精査することで赴任当時に経験した透析中の心筋梗塞による急変はなくなりました。下肢についても積極的に精査しましたが早期に診断しても治療に結びつかない症例も多く前述の男性の時に感じた歯がゆい思いは未だになくなりません。数年前からCKD-MBDに対する治療薬が増え、炭酸CaとビタミンDだけでなくシナカルセトやCa非含有リン吸着薬によりCa/Pのコントロールが以前より容易になり薬剤の組み合わせによって複数の処方が考えられるようになりました。このJ-DVID試験によりビタミンDの心血管イベント抑制効果、生命予後改善効果が明らかにされれば心血管病の治療薬としてビタミンDがベース薬となり、そのうえでCa/Pのコントロールのために他剤を調節する治療がスタンダードになるのかもしれません。患者と医師が血管石灰化による苦悩から解放される日を夢見て臨床現場から試験の結果を待っております。