医学研究の王道

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井上 徹
(東香里病院 副院長)


 前職、大阪医科大学腎臓内科の時代に症例登録呼びかけをほんの少しお手伝いしたご縁で世話人に加えていただいております。私自身ビタミンDを研究したことはないのですが少し昔を振り返ってみます。
 私が医学研究を志した頃はちょうど分子生物学が細胞生物学の手法を塗り替えつつある時でした。cDNAクローニングにより蛋白の一次構造決定が可能となり、次に遺伝子改変により蛋白の機能を明らかにすることで多くの基礎医学研究が花開きました。エリスロポエチンの臨床応用もこの頃です。いっぽう私は腎炎の進展に関与するかもしれない未知の脂質因子を追いかけているラボに留学したのですが、生体脂質の分析には蛋白化学のようなブレイクスルーはなく、結局その金鉱掘りみたいな研究は実を結ぶことなく終わりました。
 帰国後、臨床に復帰した私が実感したのは、優秀な研究者が注力し数多の学術論文に結実した前述の研究成果がエリスロポエチン以降あまり患者の役に立っていないのではないかという反省でした。臨床医は臨床研究をすべきだ。研究は小ネタでもいいから実臨床を変える、あるいは経験で行われている診療に科学的根拠を与えるものでなくてはいけない。私だけでなく、この時期多くの臨床医が同じように考えていた気がします。
 しかし、そこで私が苦しんだのが研究デザインと臨床統計に関する素養のなさです。動物や培養細胞なら結果が出なければ作業仮説を変えて何度でもやり直せるし、統計だって簡単な有意差検定で事足りた。でも臨床研究は違う。相手が患者さんだけに恐ろしく手間と時間がかかるし、やり直しもきかない。そもそも疫学的知識がなければ適切な研究計画すら組めない。実際、私にも900人規模の観察研究においてせっかくビタミンD使用で予後に有利な差が出ていながらデザインの不備と統計学的解釈の行き詰まりから論文化できなかった苦い経験があります。また日常臨床業務の傍らその手間な部分を誰がやるのか、この陥穽に落ちた「メーカー主導研究」が批判を浴びたのは記憶に新しいところです。
 J-DAVID研究は、緻密な研究計画と庄司先生始め多くの関係者の労を惜しまぬご努力により、腎臓病診療に勇気を与える成果を生むだけでなくこの領域の臨床研究のベンチマークとなるものと確信しています。