生体腎移植ドナーとCKD 

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仲 谷 達 也
(大阪市立大学 泌尿器科)


腎癌に対しての根治的腎摘除術(つまりは片腎摘出)では、残腎機能低下に起因する心血管病により術後生存率が腎部分切除術に比べて10年で11%低下することが2008年にMayo Clinicから報告された。これ以降、片腎摘出は限られた症例においてより厳格に適用されるようになり、早期腎癌では腎部分切除が標準術式となった。このことは、泌尿器科医の間ではよく知られた事実であるが、それでは同じように片腎を摘出する生体腎移植ドナーではどうなのだろうか。
腎提供後20年以上経過した生体腎移植ドナーとその兄弟との間で蛋白尿・腎機能(S-CrとBUN値)・高血圧の頻度等を比較した結果、腎機能や蛋白尿発症頻度に差はなく、降圧薬服用者はドナー群でむしろ有意に少なかったことが1990年代に既に報告されている。別の研究では、ドナー3700名と年齢・性別・人種を適合させた一般住民とで比較したところ、腎摘出後30年以上の経過観察において生存率に差はなくQOLスコアはむしろドナーの方が良好であったことが米国から2000年代に報告されている。ほぼ同時期にわが国では単施設報告として同じく年齢・性別をマッチさせた一般住民と生体腎移植ドナー600名とを比較して術後30年の生存率にやはり差のないことが示されている。
一見、相反するようにも思えるが、片腎摘出についての上記研究結果の示すところは、病期や腫瘍局在により術式が決定される腎癌の場合、術前に厳密な残腎機能評価やCKD長期経過予測を行うことは一般的ではなく、術後も腫瘍コントロールに軸足を置いた管理が行われており、一方、腎に十分な予備能力があり、将来の腎機能低下の危険因子である高血圧や糖尿病といった基礎疾患を合併しない生体腎移植ドナーでは、片腎摘出によるCKD進行や心血管病の生命予後への影響はあまり大きくないということである。
なるほどと一応は腑に落ちる結論ではあるが、少し気にかかる点もある。精密な術前検査に合格し親族の病状を深く憂える生体腎移植ドナー、言い換えると自己管理も的確に行える健康な人の生命予後が、年齢・性別適合一般住民と同等レベルで本当に良いのだろうか。答えを見つけるのは難しいが、生来健康な人といえども、ドナーとして一旦片腎状態となった後は、長期の術後管理が必要なことは間違いない。