天使か悪魔か、はたまたシシ神か

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満生 浩司
(福岡赤十字病院 血液浄化療法内科)


 はじめに、わが師平方秀樹先生が会長を務めた第58回日本透析医学会学術集会・総会が無事終了した。天候にはいまひとつ恵まれなかったにもかかわらず、福岡の地に大変多数の方々がご参集いただき、内容に関しても多くのお褒めの言葉をいただいた。3年にわたり準備を進めてきた事務局の一員として光栄の極みであり、これまでの医師人生の中で最も感慨深い4日間となった。まずはご協力いただいた方々、ご参加いただいた多くの方々に厚く御礼を申し上げたい。
私が福岡赤十字病院に赴任してきたのは5年前の2008年4月で、最初に仰せつかった研究活動はJ-DAVID試験を担当することであった。この時エントリーに苦労したことを良く覚えている。まずほとんどの維持透析患者はVitDを内服しており、飲んでいない人はCaが高いだの、石灰化だのそれなりの理由をもって、過去にVitDを中止した症例ばかりだった。「またVitDば飲んで大丈夫と?」と言われたら、はい、それまで!返す言葉もなく引き下がらざるを得ない。長期透析患者に対する説明は、やはり細心の注意を払う。なぜなら彼らの過去の治療決断は、当時の主治医とじっくり討議をし、十分な納得の上で行っていることが多いからだ。「これが現在のガイドラインですから」なんて安直に言おうものなら「私は先生が医者になる前から透析ば、しとるとよ!」と返されかねない。
PTH抑制の主役として活躍したVitDであったが、いつの間にか高P、高Ca、石灰化という悪のレッテルも貼られるようになった。その内塩酸セベラマー、炭酸ランタンそしてシナカルセトと大型新人が立て続けに登場し、かつての大物役者VitDの運命やいかに!とまではいかないが、やはり投与のさじ加減は以前より複雑だ。その中でJ-DAVID試験が「VitDは長寿ホルモン」を証明せんとしている。仮説が証明されることを切に希望する。頑固なベテラン患者にも胸を張って説明できる。
宮崎アニメの「もののけ姫」の中に「シシ神(ディダラボッチ)」という生き物たちに命を与え生かしもするし、逆に命を奪い殺しもする神が登場する。これは単純に適当さや曖昧さといった意味合いとは異なる真理的な象徴と思える。こういった相反する作用を持ち合わせることが、堅牢に世界を維持するシステムとなっているのか。「良い」か「悪い」かではなく、「必要」なのか「必要でない」のかが、最も重要ではないか。表面的な形相に惑うことなく、内面に本質的な価値を見出そうする独特の美意識をもつこの国から、的を射たエビデンスが満を持して誕生しようとしている。