治療薬としてのビタミンD:今昔物語

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西 川 光 重
(関西医科大学 第2内科)


 今は昔、私が医者になって間もないころ(1975年頃)は副甲状腺機能低下症による低Ca血症の治療は大変であった。市販のビタミンDに活性型がなく、ビタミンD2しかなかった(ビタミンD1は不純物を含むもので欠番とされ、番号はD2から始まっている)。副甲状腺ホルモン(PTH)がないために活性型である1,25(OH)2ビタミンD3が産生されず、Caが消化管から吸収されない。そのため、ビタミンD2とともに大量の炭酸Caを投与していたが、患者は常にしびれに悩まされていた。炭酸Caはチョーク(最近では黒板を使うことがなくなって死語になった?)の主成分で、毎日、毎日、チョークをたくさん食べているんだなと感じていた。
 活性型の1α(OH)D3が上梓されたのは1981年であった。これで副甲状腺機能低下症の治療は容易となった。昔に大量に処方していた炭酸CaなどのCa製剤は、尿中・血中Ca濃度の変動を大きくするので不要か、むしろ、有害である。高Ca尿症による腎機能障害を防ぐため、尿Ca/Crを0.3以下とする。血中Ca濃度はあえて正常までする必要はなく、症状のでない範囲で8mg/dl程度あれば良いとされている。
 一方、標的臓器のPTHに対する不応性のために低Ca血症を呈する疾患を偽性副甲状腺機能低下症(PHP)という。本症はPTH受容体のGTP結合蛋白αサブユニット蛋白をコードする遺伝子GNASの異常により発症する。円形顔貌、低身長、第3,4中手骨の短縮などの特徴的な身体所見(Albright遺伝性骨異栄養症:AHO)は、母系アリルに変異のある場合にPHPの一部分症状となる。父方アリルのみに変異が存在する場合は、母系アリル優位な発現によりシグナル伝達に異常を生じないため、腎でのPTH反応性は障害されず血中CaやP濃度に異常は認めない。この、AHOの身体所見を有するが低Ca血症を認めない病態を偽性偽性副甲状腺機能低下症という。因みにこの英語pseudopseudohypoparathyroidismは、たいていの辞書に載っていて造語ではないもののうち、最もスペルの長い英単語である(Wikipedia)。PHPでは遠位尿細管のPTH反応性が保たれていることから、特発性や術後副甲状腺機能低下症の約半分の1α(OH)D3でコントロール可能である。
 現在進行中のJ-DAVID研究では維持透析患者への1α(OH)D3の生命予後などに対する有効性が検証されている。このホルモンの将来への有用性が解明されることを期待している。